私はガラパゴスゾウガメが好きです
午前の小山内健さんによるバラの講演が終了した。
バラソムリエとして全国で活躍している・・・っと言うよりは、TVチャンピオン「バラの花通選手権」でV2を
果したと言った方が分かりやすいのかもしれない。
もちろん特設会場はすぐに満員となり、小山内さんの魅力あるバラの話は最後まで
私たちを放してはくれなかった。
そんな素晴らしい講演が終わった後の会場はやけに静かに感じる。
会場を通り抜け、先にある事務所の入り口へ向かおうとした時、その声は聞こえた。
「お~い・・・」
太く静かな、ゆっくりとしたその声には聞き覚えがある。
私はためらう事なく空を見上げた。
メタセコイア・・・
声の主は「メタセコイア」通常、園芸屋の間では「メタセコ」と略して呼ばれる事が多い。
少しだけ紹介させてもらうと、この木は「生きた化石」と呼ばれている樹木だ。
「シーラカンス」や「カブトガニ」、「ガラパゴスゾウガメ」などの動物型と同じで、
植物型の「生きた化石」なのだ。
「また、何をブツブツと言ってるんだ~い」
太い静かなゆっくりした声が、私の上に覆いかぶさる。
「あー、あんたかい。元気だったかい?」
私も釣られて、ゆっくりした口調で返事を返した。
メタセコは落葉樹のせいなのか、本当に無口で一年に一度、話すのか話さないかぐらいのペースで会話をする。
そして会話はいつも短い。
あの話し好きの常緑樹、クスノキとは対照的だ。まー、話せる木は限られているので、無口なのが落葉のせいなのかは比べようがないのだけれど。
「今日はやけに賑やかだったね~」
本当にゆっくりした口調に、調子を取られる・・・。
「あー、有名な方の講演があったからね」
「・・・・・」
「・・・・・」
「って会話、終わってんのかよっ!」
いつもながら本当に勝手に話を終わらせる奴だ。
私はちょっと、本気で頭に来ながらメタセコを殴る素振りを、空に向けて放った。
「ま、いいや・・・」
私は事務所への入り口へ急ぐことにした。
そう言えば、だいぶメタセコの葉も落ちてきたな・・・・
メタセコの落葉が始まると、本格的な冬を感じる。
色づいた姫リンゴは寒さを一層引き立てる。
本来は暖色なのだから、暖かく感じてもよさそうなのに・・・
冬が来るんだなー・・・
私は一度、メタセコに振り返り、
事務所の階段を上った。
ブラックドッグ・セレナーデ