今日はトマト研究所

博士は静かにコーヒーの香りを楽しんでいた。

「グリーンファームとまと研究所」と書かれた傾いた看板はもう何年もそのままだ。

「博士、トマトの苗が入荷して来ましたよ」

助手のトーマスが面倒くさそうに博士に知らせた。

「おー、やっと来たか今年は寒さが響いて、もっと遅れるかと思ったよ」

 

お待たせしました

野菜の苗が入荷しました

 

 

 

 

 

トマトの入荷を待ちわびていた割りに、博士は席から立つ事もなくまたコーヒーの香りに目を閉じた。

「まったく博士はのんきなんだから・・・」

もう一人の助手セイジーがクッスっと笑った。

 

人気のトマト苗も沢山入荷しています。

ラベルを見るだけでも楽しくなります。

 

 

 

 

 

「あー、そうだ博士、去年から実験しているトマトどうします?」

トーマスが研究室の小さな扉を指さして言った。

「ん!あー、あのトマトか?そーいやどうなってる?」

博士の口調は変わらずのんきだ。

「え~、見てないんですか!あのトマト・・・!」

セイジーがこの世の終わりと言わんばかりの顔で嘆いた。

このトマトの実験とは、水耕栽培で育てたトマトが果実を付けたまま枯れ、そのまま放置すると果実はどうなるか?っと言う実験だった。このまま聞くと、さもその実験を計画的に行なった様に聞こえるがそうではない。たまたま水耕栽培栽培のトマトが果実を付けたまま枯れ、博士が「このままにして置いたらどーなるんかなー?」っと言って始まっただけである。それゆえに皆、たいして興味を持っていない。

「どれ、ちょっと見てみるか」

博士は席を立ち小さな扉の方へ消えて行った。

「トーマスさん、今更なんですが、この研究所って何なんですか?」

「俺に聞くな・・・・」

トーマスはナスの苗を検品しながら項垂れて言った。

「お、おーいっ!こりゃー、すごいぞ、大発見かもしれんっ!」

博士のテンションは明らかに先ほどまでとは違った。

トーマス達も何事かと小さい扉の中に駆け寄った。

 

枝は完全に枯れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

博士は枝から切ったトマトを助手達に手渡して言った。

「トマトの色も弾力も新鮮な時のままだ」

トーマス、セイジーの目は大きく開きっぱなしだ。

「どう言う事ですか、これは・・・・?」

セイジーは博士を相手にしている事を忘れ、質問してしまった。

「そんなのわからな~いもんっ!」

博士のわからない自信はMAXなようだ。

セイジーは質問してしまった自分を悔いていた。

「どうする、食べてみるか・・・?」

「誰が・・・・?」

そんな相談をトーマスとセイジーが真剣に話合っている間に、

「ワオー!中もみずみずしいままですよー!」

っと博士はナイフでトマトを切ってしまっていた。

 

9月に枯れた後、現在4月まで

放置されていたトマトは見事に

みずみずしい

 

 

 

 

 

 

「それじゃ~、博士が頂きねっ!」

っと博士は自分の口にためらいもなく、そのトマトを放りこんだ。

「あっ!」

2人の助手は同時に声を上げ、博士の方に前のめりで凝固した。

そして、博士はそのまま動かなくなった。

「どっ、どうしたんですか博士・・・」

心配になってセイジーが博士の肩を叩いて言った。

「トマト味のダイナマイト・・・・」

博士はそう言い残したまま研究室を出て行った。

 

トマト苗以外ももちろん

沢山入荷しています。

 

 

 

 

 

翌日、助手達が詳しく昨日の状況を聞くと、とにかく口に入れた瞬間、凝縮されたトマトの味が口に広がり、喉から鼻からトマトしか感じなくなってしまい気分が悪くなったそうだ。家で口をゆすいだり、ジュースでごまかしたりしたが、トマト感が消えたのは翌朝だったそうです。お腹を壊したりはしない様だったので食べるには問題ないようですが・・・・・。

一体、この実験が何だったのかは、この物語が何だったのかと言うぐらい謎です。

おしまい

 

この物語は実在の人物をモデルに実際にあった事をフィクションとノンフィクションを交ぜながら構成しました。ですので本当にトマトは半年以上も水分を残したまま保存できてしまいました。この保存方法がいつしか日本の未来を変えるかもしれません。っというのは無いかもしれません。

ブラックドッグ・セレナーデ

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