セレナーデ

私が神奈川に移り住んで、最初の住まいはワンルームのアパートだった。ロフト付きの部屋だったがとにかく狭く、早く出たいと思ったのを今では懐かしく思う。

それでも救いだったのは、1階で植物を置くスペースが広かった事だった。私は仕事先の園芸店で買った植物を所狭しと並べて育てていた。小さめの睡蓮鉢でビオトープもやってみた。今でも当時の写真を見ると可笑しくなる程、植物で埋め尽くされている。

 

カラーリーフとして寄せ植えでも

人気「ハゲイトウ」

この子が園芸店に顔を出すと、

私は秋を感じるんです。

 

 

 

そのアパートに住んで1年が経ったある日、忘れられない「おばちゃん」と出会う。

「えっ、え~っ!、この部屋に住んでいたのは男の子だったの~!」

その日、休暇だった私は窓から外に出て、植物の手入れをせっせとこなしていた。そんな私の姿を見て大声で話かけてきたのが「おばちゃん」だった。

おばちゃんは1年間、この部屋に住んでいるのは女性、しかも多分、お花を愛する綺麗な女性だと勝手に想像していたのだと言う。

植物が置いてある場所はアパートの構造上、住んでいる私意外には見れない場所にある。では、「おばちゃん」は何故見ていたのか?

「おばちゃん」はこのアパートの周りを清掃する、「掃除のおばちゃん」だったからである。「おばちゃん」は2ヶ月に1度、このアパートの草取りやゴミを整理に来るのだそうだ。私とおばちゃんは1年間すれ違いで会う事が無かった。

「おばちゃん」は何度も「本当に一人で住んでるの?彼女と住んでるのではないの?」と聞いて、私が植物を育てている事実を曲げようと試みていた。

この日から「おばちゃん」との交流が始まった。

 

8月中、花を咲かせる「サルスベリ」

この花が咲くと

私は秋を感じます。

 

 

 

 

それから「おばちゃん」は私が休みであろう日を検討して掃除に来てくれるようになった。「おばちゃん」も植物が好きで私に色々質問したかったようだ。私も分かる範囲(当時はまだそれ程、知識があったわけではなかった)で答えて、笑い話しの雑談もするようになった。そして2年が経ち私は引越しする事になった。

 

「コキア(ほうきそう)」を見ると

私はおばちゃんを思い出す。

 

 

 

 

 

引越しを告げた後も「おばちゃん」は相変わらず、掃除がてら私を訪ねて来てくれた。そして引越しが近づいたある日、おばちゃんは1枚の写真を見せてくれた。

「あんたにもらった、「ほうきそう」の種がこんなに綺麗になったよ。」

見せてくれたのは赤く紅葉した「コキア」の写真だった。私が1鉢育てていた「コキア」から、こぼれ種で次の年、あちらこちらから「コキア」が芽を出した。おばちゃんは雑草取りをした際も、「コキア」の芽は抜かず残してくれていた。その年、私のアパートの庭はコキア畑になっていた。「おばちゃん」と私は大笑いして、「やりすぎたね」って笑った。その時の種を「おばちゃん」にあげたのだった。

おばちゃんは「これでホウキを作って、あんたが引越した後、掃除でもしてあげるかね。」と冗談を言って、また2人で笑った。

 

売場で大きな「コキア」が

風に揺れると、

私はあの日の秋を感じるのです。

 

 

 

 

おばちゃんとの交流はその後ありませんでしたが、植物が作ってくれた出会いの思い出は今も残っています。

ブラックドッグ・セレナーデ

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